KENです。
前回は、テートブリテン(Tate Britain)の見学を開始し、気になったものやホガース(Hogarth)について解説しました。
今回は、テートブリテンの目玉の1つオフィーリアがある1840年ルームに向かいます。
アイキャッチ画像はそのオフィーリアです
神秘的なようにも見えますが、リアルすぎる溺死体のようにも見えます。
オフィーリア(Ophelia)とは
ジョン・エヴァレット・ミレー( John Everett Millais 1829-1893)の代表作です。
シェイクスピアの4大悲劇の1つ「ハムレット(Hamlet)」をモチーフにした作品です。
ハムレットのいいなずけオフィーリアが、まさに悲劇的な死を遂げようとする刹那を、まるで映画のワンシーンのように描いています。
怒りのあまり狂人と化したハムレットに「尼寺に行け!」とののしられ、家族まで刺し殺されたオフィーリアが、失意の中で美しい死装束をまとい、花々に囲まれて、歌を口ずさみながら川の水の中に沈んでいく様は、見る人々の目を奪います。
英国留学中の夏目漱石もこの絵に深い感銘を受けたそうです。
漱石は彼女の姿を土左衛門(体の膨れ上がった溺死体)と表現しました。
一方、フランス人の哲学者ガストン・バシュラール(Gaston Bachelard)が「オフィーリア・コンプレックス」と呼んだように、ヨーロッパでは溺死した女性を美化する傾向があったようです。
女性の溺死
19世紀後半には、美女の溺死の絵が
- ドラクロワ(Delacroix)
- ワッツ・ドラローシュ(Delaroche)
- カバネル・ハント・グリムショー
などの多くの画家によって描かれています。
ドラローシュの描いたオフィーリア
これは、ルーブル美術館に展示されています。
ドラクロワのオフィーリアもルーブル美術館にあるのですが、イメージがかけ離れているので載せるのをやめます。
溺死の絵は、中世の魔女狩りの時代の影響もあるようです。
魔女の疑いを掛けられた女性は、川に放り込まれ、浮いてきたら魔女、沈んだら魔女ではないと判断されました。
また、沈んで死んでしまっても、水で浄化されて安らかに天に召されると思われていました。
「クリミナルマインド FBIvs異常犯罪」
タイトルの通り、異常犯罪ばかり取り扱うドラマですが、先程の魔女狩りと似た事件がありました。
殺人鬼が、まず女性を溺れさせて溺死させます。
殺人鬼は、胸骨圧迫と人口呼吸で無理やり女性を蘇生させて、「死んでいる間に神をみたか!?」と脅迫し、神を見なければまた溺死を繰り返す残酷な話でした。
クリミナルマインドを見ると、アメリカに行きたくなくなる可能性大🇺🇸
切り裂きジャック事件
19世紀、女性が就ける職業は極端に少なく、貧しい家庭の女性は、泣く泣く娼婦にならざるを得ないような状況でした。
19世紀の半ば頃、ロンドンにある建物の60軒に1軒が娼館で、8万人の娼婦がいました。
彼女たちの多くは、極度の貧困や望まない妊娠に耐え切れず、ロンドンのテムズ川やパリのセーヌ川に身を投げました。
ロンドンのウォータールー橋(Waterloo Bridge)は自殺の名所だったそうです。
セーヌ川でも、美女の溺死体が川から引き上げられると、大勢の男たちが死体の見物にやってきました。
有名な切り裂きジャック事件もこのような時代背景の中で起こりました。
この事件は、犯人とされたジャック・ザ・リッパー(Jack the Ripper)が、次々と娼婦たちを残忍な手口で殺したことになっています。
事件には様々な解釈があり、俳優のジョニー・デップ主演の「フロム・ヘル」では、この事件は英国王室とフリーメイソンの陰謀として描かれています。この映画にも多くの娼婦が登場します。
映画「名探偵コナン ベイカー街の亡霊」では、シャーロックホームズの仇敵モリアーティ教授の部下として切り裂きジャックが描かれていました。
オフィーリア制作秘話
「ハムレット」の舞台は北欧ですが、ミレーはロンドン南部の田園地帯をまわり、柳がななめにひっそり立っている静かな川辺を見つけ、はじめに背景だけを完成させました。
彼がオフィーリアとして描いたのは、やはり貧しい家庭の女性、エリザベス・ジダルでした。
バスタブに湯を張り、エリザベスをそこに浮かべて描いたそうです。
彼女はやがてロセッティの専属モデルとなり、彼と結婚しました。
オフィーリアとは違って幸福な人生を送ったのかと思いきや、エリザベスも若くして悲劇的な死を遂げました。
溺死ではありませんでしたが、アヘンチンキ中毒で亡くなったとのこと。
そういえば、「フロム・ヘル」のジョニー・デップもアヘンで死ぬ探偵役でした。
次回は、1840年ルームを出てターナーを鑑賞します。
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